不動産研究 56-3

 

第56巻第3号(平成26年7月)
特集:東京オリンピックと不動産市場 -2020年までの変化を見通す-

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第56巻第3号

特集:東京オリンピックと不動産市場 -2020年までの変化を見通す-

2020東京五輪開催と東京の変貌

明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長 教授 市川 宏雄

 2020年の東京五輪開催による経済波及効果は生産誘発額ベースで19.4兆円以上、GDPを年間で0.3%上げる効果がある。競技施設整備費や大会運営費に加えてMICE活発化等による訪日外国人の増加や建設投資、都市づくり事業の前倒し、新規産業の創出、ドリーム効果による消費増が寄与する。基盤整備は、前回の1964年の五輪の時とは比較にならないが、それでも都心の幹線道路・高速道路の建設、新たな鉄道・地下鉄の建設、BRT(バス高速輸送システム)などの計画の構想や実施があり、羽田空港の国際化が進展する。こうした動きは、現在、世界第4位である東京の都市ランキングを少なくとも3位に押上げ、2位のニューヨークに近接するとのシュミレーションの結果がでた。ただし、そのためには、国家戦略特区に象徴される国際競争力強化のための政策の実施、規制緩和が不可欠となる。

【キーワード】国際的都市間競争、国家戦略特区、羽田空港の国際化、経済波及効果
【Key Word】international competition between metropolises, national strategy special zone, internationalization of Haneda Airport, economic ripple effect

 

東京の木造住宅密集地域における土地評価
-2020年東京オリンピックまでの地価変動予測を踏まえて-

一般財団法人日本不動産研究所 研究部 研究員 金 東煥
一般財団法人日本不動産研究所研究部 研究員 山越 啓一郎
明海大学 不動産学部 准教授 小松 広明

 今後の東京都の地価は、木造密集地域整備に伴う道路拡幅や公園整備等の個別的要因、不燃領域率改善等の地域要因によって上昇する可能性が大きい。更に、アベノミクスや2020年東京オリンピック開催に向けた施設整備等の地価形成の一般的要因が今後の東京都の地価上昇をもたらす可能性がある。本研究では、このような地価形成要因が、東京都23区の住宅地の地価に与える影響をヘドニック地価関数と時系列モデルを用いて実証分析を行った。その結果、東京都23区の地価(住宅地)は、アベノミクスや2020年東京オリンピック開催等の一般的要因によって2018年上半期まで上昇し続けて、ピーク(2013年対比+5.3%)を迎え、以後下落する(2020年下半期時点2013年対比+3.9%)と予測された。また、木造住宅密集地域の整備に伴う道路拡幅と公園設置の個別的要因は、前面道路の1mの拡幅が最大4.3%の地価上昇をもたらす。更に、公園の整備(2,500㎡の公園を設置した場合)は、250m地点で0.8%の地価上昇をもたらす。最後に、不燃領域率の地域要因は、現状の55%から70%まで改善されることで5.4%の地価上昇をもたらすことが明らかになった。今後の東京都23区の地価(住宅地)は、上昇しやすい状況を備えていると考えられる。

【キーワード】地価、木造住宅密集地域、整備効果、ヘドニックモデル、VECモデル
【Key Word】Land Price, Densely Developed Wooden-Frame Residential Area, Redevelopement Effect, Hedonic Model, VEC Model

 

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(平成26年3月末現在)をふまえて-

髙岡 英生

 当研究所は平成26年3月末現在の「市街地価格指数」を5月22日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 景気回復に伴う不動産市場のマインドの改善を反映し、東京・大阪・名古屋等の大都市で地価が上昇したほか、その近郊都市でも地価下げ止まりの動きが見られた。
  • 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で見ると、平成20年3月末調査以来、6年(12期)ぶりに全ての都市圏において前期比(平成25年9月末比)で地価上昇となった。
  • 三大都市圏のうち、「東京圏」の詳細区分である「東京区部」の地価動向は、平成19年9月末調査以来、6年半(13期)ぶりに全ての用途(商業地、住宅地、工業地、最高価格地)で地価上昇となった。
    用途別に見ると、前回調査(平成25年9月末時点調査、以下同じ)に引き続き、商業地と最高価格地で強めの地価上昇が見られた。
  • 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区)の地価動向は、総じて前期比5%前後の地価上昇となった。前回調査において、やや地価上昇の程度が緩やかであった渋谷は、駅前の開発計画が明らかになってきたことにより、他地区と同程度の地価上昇になった。
  • 地方別では、「関東地方」及び「近畿地方」の最高価格地の平均が、ともに平成20年3月末調査以来、6年(12期)ぶりに地価上昇となった。
  • 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、全ての地方で地価下落が継続したものの、下落幅は縮小した。中でも、「東北地方」と「四国地方」は相対的に大きく下落幅が縮小した。
    「東北地方」は、宮城県・岩手県の津波被災地で地価上昇が見られた他、福島県における除染作業の進捗に伴う不動産需要の回復等により、下落幅が縮小した。
    「四国地方」は、太平洋側都市において、津波に対する不安感が防災対策により薄らいできたこと等により、下落幅が縮小した。
  • 今後半年間の地価動向については、「全国」では、地価下落が継続しつつも下落幅は縮小傾向になり、三大都市圏では今回と同程度の地価上昇が継続する見通しとなった。

※全用途平均
東京圏
大阪圏
名古屋圏
六大都市

:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

キーワード:市街地価格指数、三大都市圏、全用途平均、地価上昇

 

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2014~2020年、2025年)・2014春について

手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2014~2020年、2025年)・2014春」を4月23日に公表した。①東京ビジネス地区の賃料は、2013年に上昇反転し、2014年と2015年は5~7%の上昇が継続。空室率は2014年に6.1%、2015年に5.2%まで低下。2016年は新規供給が50万坪と急増するが、市況が良いので影響は小さく、賃料の上昇幅は5%程度を維持。2017年以降は上昇継続も上昇幅が低下し、空室率は5%弱で横ばい。②大阪ビジネス地区は、2013年のグランフロント大阪等の大量供給で空室率が再上昇したが、2014年は新規供給も少なく、空室率は8.9%まで低下し、賃料もわずかに上昇。2015年以降も空室率は低下し、賃料も3~4%の上昇が続く。2020年に空室率は6.5%、さらに2025年には5.6%まで低下し、賃料は微増傾向が続く。③名古屋ビジネス地区は、2013年と2014年は新規供給が少なく賃料もわずかに上昇。2015年は同年に予定されていた大規模ビル1棟の竣工が1年遅れるが、名古屋駅周辺で過去最大の新規供給があり、空室率は大幅に上昇し、賃料も再度下落に転換。2016年も大量供給となり、空室率は12%を超えて、賃料も約5%下落。2017年以降は新規供給が少なく、空室率は低下するが、賃料は下落が続き、2018年から2~4%の緩やかな上昇が続く。2020年以降は賃料が概ね横ばいで、空室率は微増。

キーワード:賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

最近の不動産投資市場の動向
-第30回不動産投資家調査結果(2014年4月1日現在)をふまえて-

愼 明宏・髙岡 英生・吉野 薫

  当研究所は、「第30回不動産投資家調査」の結果を5月22日に発表した。
前回調査(2013年10月)は、日銀による「異次元の金融緩和」や、7月の「衆参のねじれ問題解消」、さらに9月の「2020年東京オリンピック開催決定」など、国内経済等の回復を印象づける出来事が多い中実施され、こうしたことを背景に不動産投資家の期待する利回りは低下傾向の鮮明化が見られた。今回調査(2014年4月)は、国内経済等において、前回ほどのインパクトの大きい出来事は少なかったものの、不動産投資市場の回復期待や回復の認識が高まる中、各不動産投資家が考える今後の投資姿勢や期待する利回りの動向について注目が集まった。
このような状況下で実施された今回の調査結果の概要は以下のとおりである。

  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対するスタンスは、「新規投資を積極的に行う」が92%(前回91%)、「当面、新規投資を控える」が6%(前回5%)となり、不動産投資家の新規投資意欲は積極的なスタンスを維持している。
  • Aクラスビルの期待利回りは、東京においては、丸の内・大手町が4.0%(前回差-20bp)となり、前回に引き続き低下したほか、ほぼ全ての調査対象地区において10~20bp低下した。主たる政令指定都市においては、札幌、仙台、名古屋、大阪(御堂筋沿い)、福岡で20bp低下したほか、さいたま、千葉、横浜、京都、大阪(梅田)、広島で10bp低下した。一方、神戸は横ばいであった。
  • 賃貸住宅の期待利回りは、東京においては、ワンルームマンションが城南地区で5.1%(前回差-10bp)、城東地区で5.4%(前回差-10bp)となったほか、ファミリー向けや外国人向け高級賃貸においても低下した。主たる政令指定都市においても、ワンルーム及びファミリー向けともに全ての調査対象地区で10~20bp低下し、利回りの低下が継続している。
  • 商業店舗の期待利回りは、都心型高級専門店について、東京の銀座、表参道がそれぞれ4.2%(前回差-20bp)、4.4%(前回差-10bp)と低下したほか、主たる政令指定都市においても多くの地区で低下傾向が鮮明となった。

キーワード:不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

 

論考

リザーブ・キャップ・レートと不動産投資家の意識構造
-2020年のオリンピック開催と不動産投資のタイミングに関する一考察-

金 東煥・山越 啓一郎・小松 広明(明海大学 不動産学部 准教授)

リザーブ・キャップ・レートとは、 2013年4月時点調査において新たに定義された用語であり、対象物件に対する買い手の最大支払い意思額に基づいた取得期待利回りを意味する。丸の内・大手町地区Aクラスビルのリザーブ・キャップ・レートは、2017年まで低下しやすい状況が続くが、その後の2018年から2020年のオリンピック開催年次にかけては、物件の売却が購入に先行し、上昇に転じやすくなると考えられる。一方、城南地区賃貸住宅ワンルームのリザーブ・キャップ・レートについては、2015年以降2020年までは、物件の売却が購入に先行する傾向にあるため、上昇に転じやすくなる。2014年4月時点のリザーブ・キャップ・レートに関連する投資家の意識構造をみると、収入の上昇期待に比べて、収益の悪化懸念が、物件の取得意欲に対して強い影響を与えはじめていることが明らかとなった。当該用途のリザーブ・キャップ・レートは、下限値に接近しつつあると考えられる。

キーワード:オリンピック、リザーブ・キャップ・レート、不動産投資、共分散構造分析

 

The Appraisal Journal Winter 2014

外国鑑定理論実務研究会